arbor-echo-scanner

木を切らずに、幹の中を視る。

購入済みの音響センサーを、市販ソフトの代わりに自作のソフトで動かす。ハンマーで叩いた音が幹を伝わる速さから、腐朽や空洞を色で描き出す診断器です。

種別 自分用ツール ·  実験(実務効率化) · 互換 Fakopp ArborSonic 3D 相当ハード

断面トモグラム(完成イメージ)

01 — なぜ自作するのか

「自分の手に馴染む診断器」を持つ

高価な商用ソフトは中身が閉じていて、自分の診断の流れや他の記録(外観カルテ・鉢物管理・造園受託)と繋げられません。自作なら、必要な機能を自分で足していけます。

痛み 01

ライセンス依存

診断のたびに高価な専用ソフトに縛られる。値上げや仕様変更にも従うしかない。

痛み 02

改造できない

自分のワークフローに合わせたくても、閉じたソフトには手を入れられない。

痛み 03

統合できない

外観診断や顧客管理と一体にしたいのに、データが専用形式の中に閉じている。

02 — 仕組み

叩く → 測る → 視る の3ステップ

難しい信号処理(音の到達時刻の判定)は、購入済みのアンプ側ハードが済ませてくれます。自作ソフトが受け取るのは「何マイクロ秒で届いたか」という数字だけ。ここが実現性を高くしている肝です。

01

叩く

幹の周りに並べたセンサーを、順にハンマーで軽く叩く。音波(弾性波)が幹の内部を通って、全センサーに伝わる。

02

測る

各センサーへの到達時間(走時, µs)が送られてくる。距離÷時間で「その経路の音速」が分かる。

03

視る

健全な木は音が速く、腐朽・空洞は遅い。速さの分布を色に変換し、断面図に描く。

03 — 原理と精度の限界

なぜ音速で腐朽が分かるのか、どこまで分かるのか

腐朽や空洞は、木の繊維が壊れて密度が下がったり隙間ができたりした状態。音(弾性波)はそこを通ると遅くなります。だから「遅い経路が集まる領域=内部の異常が疑われる場所」として浮かび上がります。ただし、これは直接見ているわけではなく、速さから間接的に推測している点が大事です。

≈ 1,000–2,000 m/s
健全な生木の音速の目安(横方向)。樹種・含水率・方向で大きく変わるため、絶対値でなく「同じ木の中の相対差」で読むのが基本。
面(2D)
今回つくるのは1つの高さの単層断面。上下方向の広がり(3D)は今回の範囲外。腐朽は高さで変わるため、必要なら高さを変えて複数回測る。
直線近似
音波が「まっすぐ進む」と仮定して計算(第一版)。実際は遅い領域を迂回して曲がるため、腐朽範囲をやや広めに描きやすい。

精度を左右するもの・限界

正直に列挙します。これらは「使い方で補う」か「今後の改良で詰める」対象です。

  • センサーの本数で解像度が決まる。少ないと大まかにしか見えない(本ツールは8〜32本に対応)。
  • 初期腐朽は写りにくい。音速がはっきり落ちるほど進んでからでないと差が出ない。
  • 亀裂と腐朽は似て見える。どちらも音を遅くするため、区別は外観・経験と併せて判断。
  • 直線近似の宿命で、腐朽・空洞の範囲は実際より大きめに出る傾向。境界はにじむ。
  • 樹種・含水率・反応材で健全でも音速が変動。だから絶対値でなく相対分布で見る。
  • 測定の質(センサー間隔の均一さ・叩く強さ・樹皮の状態・カップリング)が結果に直結。

このツール固有の未検証点未検証 直線近似トモグラムが実際の腐朽とどれだけ合うかは、実測で元ソフトと見比べるまで分かりません(=M2完成後の反証ポイント)。かけ離れていれば、曲線レイ補正などの高精度化を前倒しします。

04 — トモグラムの読み方

色は「音の速さ」。速さは木の健全さの代理

色そのものが腐朽率ではありません。色は音速の分布で、その断面の中での相対的な速い/遅いを表します。だから健全な木でも色の濃淡は出ます。読むときは「色がついたか」ではなく「どれくらい遅い領域が・どこに・どんな形で集まっているか」を見ます。

速い = 健全の傾向(緑)遅い = 腐朽・空洞の疑い(黄→赤→紫)

健全に近い断面 全体が速い

ムラは多少あるが、極端に遅い(赤〜紫)まとまりが無い。周辺のわずかな色差は正常な範囲。色が出る=異常ではない。

腐朽が疑われる断面 中心付近が遅い

腐朽/空洞の疑い 亀裂の疑い(線状) 端は参考程度

赤〜紫がまとまって存在。中心寄りに広がる形は内部腐朽・空洞に典型。線状に細く遅い帯は亀裂のことも。

誤読しやすい点(アーティファクト)

  • センサーのすぐ内側・外周は不安定。経路が少なく計算が荒いので、端の色は参考程度に。
  • 1回の悪い叩きで一区画だけ不自然に遅く/速く出ることがある。おかしい時は再タップ(本ツールは手動修正・再収集ができます)。
  • 色は自動でスケール調整される。健全木でも一番遅い所は暖色になり得る。色だけで腐朽と即断しない。
  • 形と位置で読む。中心に広がる=内部腐朽、外周の欠け=損傷、細い帯=亀裂、という「形の癖」を手がかりに。

最終判断は外観・打診・経験と必ず合わせて。トモグラムは「切らずに内部の当たりをつける道具」であって、単独の結論ではありません。

05 — 通信の中身

センサーが送ってくる1行を読み解く

実機はテキストの行を送ってきます。この形式は公式マニュアルで確認済み。1回叩くと、センサーの組(箱)ごとに複数行が届きます。

IN  03  0205  0311

03 = 箱番号
箱03はセンサー 7 と 8 の組(箱00=1&2, 01=3&4 …)
0205 = センサー7の走時
205 マイクロ秒で届いた
0311 = センサー8の走時
311 マイクロ秒で届いた(=やや遅い=要注目)

今回は「センサーを1から順に叩いてください」とソフトが誘導する誘導式。どのセンサーを叩いたかはソフトが把握し、届いた行を正しい場所に記録します。

06 — 現場での使い方

測定の段取り(現場目線)

実際の流れはシンプルです。ソフトが順番を誘導するので、迷わず叩けます。段取りの罠を先に潰しておくと、やり直しが減ります。

外観で当たりをつける

どの高さ・どの断面を測るか決める。腐朽が疑われる位置(傷・きのこ・空洞音)を狙う。罠:高さで腐朽は変わる。気になる高さで測る。

幹周を測る

巻尺で測定高さの円周を測り、ソフトに入力(cm)。これがセンサー間の距離=計算の土台になる。罠:入力を間違えると音速が全部ずれる。

センサーを取り付ける

樹皮にほぼ等間隔で固定し、番号を時計回りに振る(取付方式はハードに従う)。罠:間隔の不均一・樹皮の浮き・厚い外皮は誤差の元。

アンプ・PCを接続

Bluetoothでペアリングし、ソフトの接続画面で「Reading device(緑)」を確認。

誘導どおりに叩く

「センサー1を叩いて」から順に、各センサーを数回ずつハンマーで。走時の表が自動で埋まる。罠:叩く強さのばらつき。一定のリズムで軽く。

おかしなセルを直す

近いのに極端に遅い/0のセルは、再タップか除外。手動修正・センサー単位の再収集ができる。

計算して読む・保存する

トモグラムを計算し、04の読み方で判断。データは保存して次回や記録と紐づける(.f3dの読み込みも可)。

07 — 他手法との使い分け

単独で決めない。組み合わせが定石

音響トモグラフィは「切らずに断面全体を面で見られる」のが強み。一方で間接指標であり、範囲を広めに出しがち。それぞれの手法の得意・不得意を踏まえて重ねると、精度と納得感が上がります。

手法侵襲見える範囲長所短所
外観診断(目視・触診)非侵襲表面・外形・立地基本・素早い・器具ほぼ不要。まずここから。内部は見えない。
打診(ハンマー)非侵襲表面付近の空洞手軽・その場で当たりが分かる。主観的・定量化しにくい・深部は不明。
貫入抵抗(レジストグラフ)微侵襲1本の線上の密度定量的で、その線上の腐朽は明確。点/線のサンプル・細い穴が残る・全周は分からない。
音響トモグラフィ(本ツール)非侵襲断面全体(面)切らずに面で分かる・繰り返せる・記録に残せる。間接指標(速度)・センサー数に依存・範囲を広めに出しがち。

使い分けの流れ:外観で当たりをつける → 音響トモグラフィで断面全体を面で確認 → 局所を確定したい所だけレジストグラフで裏取り。トモグラフィ単独でなく、外観・侵襲手法と重ねて結論を出すのが安全です。

08 — つくる範囲

第一版のスコープ(欲張らない)

まず「円形にセンサーを並べて・単層の断面図が出る」ところまで。3D表示や倒木リスク計算などは、単層が実用になってから足します。

IN — 今回つくる

  • M0センサーに接続し、届く行をそのまま表示・保存する(疎通確認)
  • M1センサーを円形に登録し、叩いて走時の表(N×N)を組み立てる
  • M2走時→音速→補間で、断面のカラーマップ(トモグラム)を描く
  • M3公式の .f3d データを読み込み、自作形式(JSON)で保存する

OUT — 今回はやらない

  • マルチレイヤーの3D表示
  • 風荷重・安全率などの倒木リスク計算(別途調査が必要)
  • 顧客向けレポートPDF出力
  • 不規則・楕円・矩形のセンサー配置(まず円のみ)
  • 曲線レイ補正などの高精度再構成(まず直線近似)

09 — 道のり

5つの区切りで進める

まず入口(M0)だけChromeで動かして実機と疎通確認。断面図まで作り込んでから、最後に本番アプリ(Tauri)へ移し、実際の木を1本測って運用開始します。

  1. Spec 12–3日

    接続と生ログ

    COMポートに繋ぎ、届いた行を読み解いて表示・保存。実機で形式を答え合わせ。

  2. Spec 23–4日

    配置と走時行列

    円形にセンサー登録 → 誘導に沿って叩く → 走時の表を組み立て・手直し。

  3. Spec 32–3日

    トモグラム

    音速を計算し、色分けした断面図を描画。閾値スライダーで健全/腐朽の境界を調整。

  4. Spec 42–3日

    データ互換

    公式 .f3d の読み込みと、自作形式での保存・再読込。

  5. Spec 52–3日

    本番移植と実測出荷

    Tauri(デスクトップアプリ)へ移植し、現場の実樹1本を測ってトモグラムを得る=運用開始。